私たち美濃与の仕事は、一見とてもシンプルです。
「大豆を焙煎して、粉にする。」
しかしその工程には、想像を超えるほどの奥深さと繊細な技があります。
焙煎は“焼く”ではなく“生かす”技

焙煎の目的は、ただ焼き色をつけることではありません。
大豆の中に眠る香りと甘みを、火の力で“生かす”ことにあります。
生の大豆は青っぽく、香りも淡白です。そこに熱を加えると、香ばしさと旨味が立ち上がります。
しかし、少しでも火が強すぎると焦げ臭く、逆に弱すぎると香りが出ません。
その境界を見極めるのは、数字ではなく職人の感覚です。
豆がはぜる音や、立ちのぼる香り。
五感を頼りに、“いま”が最高の瞬間だと感じ取る——それが焙煎士の仕事です。
温度と時間の静かな駆け引き

私たちが扱う大豆は、産地や品種によって性格がまるで違います。
たとえば:
- 北海道産「ゆたかみどり」:香りが穏やかでやさしい風味
- 九州産「フクユタカ」:深いコクと濃厚な旨味
同じ温度で焙煎しても、全く異なる結果になります。
香ばしさを際立たせるには高温・短時間、甘みを引き出すには低温・長時間。
その日の湿度や気温によっても、火の通り方は微妙に変わります。
毎日の焙煎は、まるで“生き物と対話している”ようなものです。
旨味とは、香ばしさと甘みの調和
私たちが考える大豆の旨味は、「香ばしさ」と「甘み」の間に生まれる調和です。
口に入れた瞬間の香り立ち、そして少し遅れて広がるやさしい甘さ。
その流れを作るのが、焙煎の温度と時間のバランスです。
- 焦げの一歩手前で止める勇気
- 甘みを逃さないようにする工夫
これらが揃って初めて、ふんわりと香り立つ美濃与のきな粉が完成します。
変わらぬ手、変わり続ける心
美濃与の焙煎室には、創業当時から受け継がれた機械があります。
見た目は昔のままでも、そこに込められた思いは常に新しい。
「伝統を守る」とは、同じことを繰り返すことではなく、
“おいしさ”の本質を追い続けることだと私たちは信じています。
- FSSC22000取得による品質管理
- 新技術(遠赤外線・AI制御焙煎など)の導入
- そして何より、最後は人の感覚で仕上げること
技術が進化しても、焙煎士の勘と経験に勝るものはありません。
おわりに
焙煎は毎日同じようで、決して同じではありません。
今日の湿度、今日の大豆、今日の火加減。
そのすべてが、出来上がるきな粉の香りを変えます。
だからこそ、焙煎士にとって毎日は挑戦であり、発見の連続です。
そしてその一粒一粒に、職人の想いと誇りが込められています。
一口で「おいしい」と感じていただけた瞬間に、
そのすべての努力が報われるのです。




